一服の清涼剤のようなフォトエッセイ「こころの風景」(文・山折哲雄/写真・太田順一)

「何か読みたいけれど、何を読んだらいいかわからない」。そんな時に紐解きたいフォトエッセイ「こころの風景」が、6月20日海風社から出版された。

(A5判218ページ、カラー)定価2,200円

エッセイは京都在住の宗教学者で、名随筆家としても知られる山折哲雄さんの書下ろしを含む52編。朝日新聞に連載していた「古都さんぽ『山折哲雄が歩く』」や「洛中夢」に初出した名文も含まれている。

それらのエッセイを「ブッダは若く、カミは老いたり」「見晴るかすこころの風景」「美にひそむ記憶」「われ、思い、旅する」の4章建てで再構成。読みやすく平易な文体ながら、一編を読み進むうちに立ち上ってくる深い洞察と見識にたびたびハッとさせられる。

「まえがき」で山折さんは「『コラボ』というのがよくわからなかった。(中略)けれども、どこか面白そうな企てだなという感じは残っていた」と読者を誘う。

もう一つの驚きが、山折さんのエッセイの合間に配された写真との出会いの妙だ。

奈良県在住の写真家、太田順一さんの「化外の花」(2003年/ブレーンセンター)、「無常の菅原商店街」(2015年/ブレーンセンター)、「遺された家-家族の記憶」(2016年/海風社)、「父の日記」(2010年/ブレーンセンター)、「ひがた記」(2018年/海風社)からの転載写真と未発表写真を含む56葉が絶妙に配置されている。

巻末の「『あとがき』にかえて」の中で太田さんは「エッセイそれぞれと組み合わせる写真を選ぶ際、一体化するのではなく離れて、あるいはずらして、場合によっては写真が異物となるよう仕向けました。あれこれ考えゲリラ戦法で臨んだわけです」と記しているが、自然や風景、事物を切り取った写真の“異物”感が世界を広げ、読後感をより豊かなものにしている。

掲載された太田さんの写真にはほとんど人物が登場しないが、最後の写真に目を見開いた。この本を作った二人が柴折垣のある石畳の小道を歩む2ショットが、そっと置かれて、左ページに二人のプロフィルが掲載されている。そこで交わされているであろう、互いを尊重しながらも親密な会話を想像させる写真だ。一読後、確認のために本を繰って、また驚いた。この写真はカラーなのだが、なぜか私の記憶の中ではモノクロの写真に変換されていたから。

 

何かに追い立てられるようにあわただしく過ぎる日常に平常心を取り戻したい時、あるいは猛暑の夏、心に涼を感じたい時、この本は何よりの安定剤または清涼剤となってくれそうだ。(大田季子)




※上記の情報は掲載時点のものです。料金・電話番号などは変更になっている場合もあります。ご了承願います。
カテゴリ: ライフ&アート